農村地域におけるコミュニティ変容とデジタル技術の統合的再構築
私の研究は、人口減少や制度の硬直化、社会関係の複雑化が進む日本の農村地域を対象に、「農村計画」を単なる行政・技術的営みから、地域社会再編の中心プロセスへと再定義し、その実践的応用を探求するものです。大きく三つの柱から構成されています。
1.農村計画プロセスの社会埋め込み的再構築
日本の農村地域は、戦後の経済成長と都市化の中で、行政主導の基盤整備や土地利用計画に支えられてきました。しかし、現在では人口減少・高齢化・空間的分散といった深刻な課題が顕在化しており、計画そのものの前提が問い直されています。私は、こうした時代の転換点において、農村計画が果たすべき役割を再定義するために、「地域社会の構造変容」と「計画の制度的・実践的再設計」の両面から研究を進めています。
特に注目しているのは、計画が住民参加や協働の手法を取り入れながらも、しばしば形式的に終始してしまう現状に対して、「関係性」「合意」「知識の共有」という観点から計画プロセスを再構築する必要性です。私は、農村計画を「空間や制度を整える」だけでなく、「地域における共通理解・学習・行動の場をつくる」社会的実践ととらえています。
この視点から、プロセス型計画(調査・構想・設計・合意形成)や、補助金・制度との関係、地域運営組織との連携といった実践を理論的に再解釈する研究を行っています。また、「地域づくり型計画論」や参加型手法の展開史を整理しながら、農村計画を「社会を協働で再構成する装置」として捉え直すことを目指しています。
2.ICTと農村社会の協働基盤に関する研究
デジタル技術の浸透は、農村における情報共有・参加・合意形成のあり方を根本的に変えつつあります。私は、ICT(情報通信技術)を、単なる「道具」や「効率化手段」ではなく、「農村における協働と知識の構造を再設計する基盤」として捉え直し、農村計画や地域づくりにおけるICTの役割を理論的・実証的に研究しています。
具体的には、以下の3つの視点からICTを分析しています:
① 情報プラットフォームと参加環境:WebGISや地域ポータル、SNSやLINEなどのツールが、従来の会議・回覧板に代わって、空間や時間、参加者の制限を超えて「協働の場」を拡張する可能性。
② 知識と記憶の共有装置としてのICT:ローカルな実践知や地域資源の情報を記録・蓄積・再利用するアーカイブとしての機能。「地域の知識」をいかに翻訳・流通させるかというナレッジマネジメントの視点。
③ 情報と公共性/ガバナンスの再編:誰がアクセスでき、誰が発言できるのか。情報的包摂・排除の構造を読み解きながら、地域における「情報民主性」や「公共圏の再構成」を社会システム理論や情報社会論の視点から捉えています。
ICT活用の事例研究にとどまらず、「農村における意味・知識・関係の再編」としてのICTを理論的に位置づけ、持続可能で柔軟な農村ガバナンスの構築を支えることを目指しています。
3.日本の農村計画学と国際理論との結節
国際的なコミュニティ理論(Community Resilience, Community Capacity、ネットワーク理論、共創理論など)やデジタル社会研究をコアに据え、日本国内の農村計画学に横断的に統合することを試みています。これにより、国内外の知見を相互に補完し、日本の事例研究がグローバルな研究動向の中で発信・評価される枠組みを構築しようとするものです。
三本柱を通じて、地域参加・知識共創・デジタル基盤を有機的に結びつけた持続可能な農村計画の包括的モデルを提示し、日本の農村計画学を国際研究コミュニティとも連携させる「架け橋」としての役割を果たすことを目指します。