1.人口減少・土地利用シュリンク時代に対応するルーラルフリンジの境界制御と土地利用計画に関する研究
人口増加期・環境開発型社会には,人の利用空間が拡大し,自然が縮退しました.しかし,現在,我が国をはじめとする先進国は,人口減少時代を迎えるとともに,環境を保全する社会に移行しています.これに伴い,人の利用空間が縮退し,農村部と自然領域との間で,耕作放棄地や管理放置林が増加するとともに,集落の消滅も増加しました.その結果,野生動物との軋轢の緩和,土砂災害の防止,水資源のかん養など,このようなルーラルフリンジエリアが担ってきた重要な機能が消滅しています.
図 人の領域のシュリンクと自然領域の拡大
人の領域の縮退に対応した土地利用計画手法の開発は,人類が歴史上初めて遭遇している「継続的な人口減少」という事象に対応する未来指向型の研究と言えます.また,「環境開発型」ではなく,成熟した「環境保全型」社会が,自然と人との境界をコントロールする「新たな自然との共存のあり方」を解明する研究であり,国際的にもニーズの高い研究と言えます.
具体的にはまず,都市計画法の改正や,農地の非農地化する新たな土地利用制度が,地域の土地利用改変や農地管理にどのような影響を及ぼしているのかを研究しています.現在までに,都市計画法による規制に依存し,かつ農地の有用性にのみ依拠した農地制度の弊害により,線引き廃止後に農地転用とスプロールが進行し,農村景観が維持されない現状を明らかにしてきました.また,農地を行政通知により「非農地化」する制度が創設された結果,「非農地化」することにより農地規制が解除され,傾斜地農地が太陽光発電や残土捨て場等に利用される危険があることも提示してきました.
図 樹園地転用地に設置された太陽光パネル
2.野生動物との共存を可能にする農村空間デザイン手法に関する研究
瀬戸内海の島嶼にうち,愛媛県に属する全島を対象に,海を越えたイノシシの生息拡大プロセス・定着要因に取り組んできました.その結果,松山市の島嶼部に移入したイノシシの移入元は,広島県・鹿島であること,移入後,6~8年は生息頭数の拡大が見られない「潜伏期」があり.その後3~4年をかけて農作物被害が増加し始め,被害拡大期に移行することを解明しました.
図 瀬戸内海における海を越えたイノシシの生息拡大プロセス
図 島嶼部の特産品である柑橘類に対するイノシシの食害
また,松山市の島である中島で捕獲されたイノシシの年齢査定と胎児のサンプリングを行いました.その結果,豊富な餌資源と,温暖小雨を背景に,初産の低年齢化が見られることを明らかにしました.また,出産時期が4月下旬と比較的早いことが,温暖小雨地域においてイノシシが爆発的に個体数を増加させる要因であることを突き止めました.
さらに,野生動物の問題に対し,土地利用の面からもアプローチしています.具体的には,生息地の分断・孤立化によるイノシシ生息個体数制御手法の開発です.捕獲だけでなく土地利用を制御することより生息頭数を減少させ,人と野生動物の衝突を減らす方法を開発したいと考えています.
図 グラフ理論を用いたパッチ-コリドー・ネットワーク解析
3.持続可能な農地基盤の利用と管理に関する研究
中山間地域に立地する水田や樹園地を対象に,農地の圃場整備に向けた関係者間の合意形成プロセスを研究しています.現時点までに,水田とは異なり,樹木の伐採が圃場整備の促進を妨げること,耕作放棄地率が高い方が圃場整備への合意形成が促進されること,整備後の農地を担い手に流動化させるコーディネータの役割を農協等が担う事により整備が促進されること,を明らかにしてきました.
図 山裾に広がる樹園地の様子